教室の思い
今しかできない体験がある
“知識は後でも身につけられるけど、今しかできない体験があるのよ!”
これは、わたしたちの教室に通うある男の子に、その子のお母さんが投げかけた言葉です。プログラムに参加している子どもたち、みんなで何かをしようとしたとき、なぜかその子だけが一瞬ためらってしまったとき、横で見ていたお母さんがとっさに発したこの言葉。“今しかできない体験”、そう、確かにその通りだと思いました。教室の活動を通して子どもたちはさまざまな自然の事象に接し、理屈ではなく五感を通して直感的に、ストレートに受け止めます。そこには、感動があり、驚きがあり、楽しさがあり、そして「?」も生まれてくるのです。
わたしたちが提供しているプログラムは、特殊な体験をさせるものではありません。主たる内容は、ごく普通のものです。ただし、そこにはわたしたちなりのさまざまな工夫や仕掛け、こだわりや演出があります。もっと感動してほしい、もっと興味を持ってほしい、もっと夢中になって楽しんでほしい、普通でありながら普通とはちょっと違うものを体験してほしい。“今”しかできない体験、今だからこそできる体験、子どもたちにとっての“今”を大切にする、それがわたしたちの思いです。
わざわざ出かけて行く:実体験でしか得られないもの
早稲田こどもフィールドサイエンス教室は野外で活動する教室です。雨が降っても、それも自然のうちですから警報などが出ていない限り決行です。以前、台風の影響でかなりの雨が降った日に、里山に昆虫観察に出かけたことがありました。雨の日に昆虫観察? 確かに、雨が降っているとチョウやトンボは姿を見せません。けれど、飛んでいないだけでどこかに必ずいるのです。草の葉の裏をあちこちと、ていねいに見て回ると……いました! 雨を避けて葉の裏側でじっとしていたのです。雨の日だからこその姿を子どもたちは目撃しました。
その時々で自然は姿を変えます。その時、その場所でしか味わえない実体験こそが子どもたちにとって忘れられない貴重な価値になるのです。
現在、タブレットなどの情報端末が教育現場にも導入されています。それはもちろん必要なことですが、自然の事象を扱う場合には万能とはいえません。花の色は画像で確認できても、花の大切な要素である「におい」は現状の端末では伝えられません。子どもたちには、「実体験でしか得られないもの」に少しでも多く触れてほしいと考えています。